個人クリニックを開業したときの「節税の基礎の基礎」~必要経費の考え方~
クリニックを開業する先生は、多くの場合まず「個人事業」として施設を開設することになります。
そしてその場合、毎年1年分のクリニックの“利益”を先生個人の「事業所得」として確定申告をし、税金=所得税を納めることになるわけですが、毎年生ずる税金の中心がこの所得税であり、したがってクリニックの節税を考えるときには、所得税の元となる“利益”の正体を正確に理解し、できる限りうまくコントロールしていくことが不可欠な思考となるのです。
利益とは
利益とは一般に言うところの“儲け”を指し、これは次の式で計算されます。
「利益」=①「収入」-②「経費」
一方で所得税を計算する場合の“利益”は「事業所得」と呼ばれ、これは次の式で計算されます。
「事業所得」=①「収入」-②’「必要経費」
クリニックを運営して残るお金増やしていくためには、①「収入」を大きくするのと同時に②「経費」をなるべく抑え、利益を増やしていくことが必要ですが、所得税の節税のためには逆にこの②’「必要経費」をいかにして漏れなく大きく計上できるか、の点に最大のポイントがあります。
必要経費とは
では、「必要経費」とはどのようなものが該当するのでしょうか。
所得税では、必要経費は「収入金額を得るため直接に要した費用及びその業務について生じた費用」と規定されています。つまり、必要経費とは収入や業務との明確な関連性が必要とされる費用であると考えてください。
薬品費やスタッフの給与、クリニックの家賃や水道光熱費、広告宣伝費用などは当然これに該当しますが、実務では使い方により必要経費となるいわば“グレーゾーン”の経費が多く発生します。
例えば下記のように、同じ場所で同じようにお金を使っても必要経費なるケースとそうでないケースがあります。
①レストランでの食事代等
スタッフとの打ち合わせや連携先病院の先生方との情報交換などで使った食事費用等は「業務に明確な関連性がある経費」であり必要経費と考えられます。
一方、同じお店で仕事を終わりに一人で食事をした場合や、休日に家族・友達とで行った場合の費用はプライベートな支出であり、こちらは必要経費となりません。
②接待費、贈答品
比較的高額な飲食やゴルフ、中元・歳暮などの接待交際費は、収入に紐づく対価性や明確な事業関連性、また金額の妥当性が必要経費とする上での前提条件となります。
患者紹介のお礼、普段の連携や経営助言のお礼などで支出する接待交際費は、“妥当な金額”の範囲で必要経費となり得ますが、単に自分の趣味・趣向で使ったものは当然ながら必要経費とはなりません。
③衣服、靴等の購入費
診療現場で着用するユニフォームは必要経費となる一方、院内で着用するものであってもプライベートでも使えるものは原則として必要経費になりません。
ただし、汎用性があるものでも「仕事でしか使用しない」と合理的に判断できるものであれば必要経費とすることができます。例えば「機能上プライベートでは使用しない」「医師会等公務、急なイベントなどに備えて院内に常備している」など、機能や用途を明確に限定したものであれば必要経費性をしっかり主張すべきでしょう。
隠れた必要経費を発見する
クリニック事業を遂行するにあたり、様々な局面で生じている必要経費を注意深く認識し、積極的に計上していく努力が必要となります。特に、プライベートで購入・使用しているものを事業用にも使う場合、その事業使用部分を合理的に抽出することができればその部分を必要経費にすることが可能です。
①自動車関連費用
「家事関連費」のなかで代表的なものは自動車関連支出です。プライベートと共用の場合であっても、クリニック事業で自動車を使用するのであればその使用に伴う支出は必要経費となります。
自動車関連の支出は意外に多く、例えば次のようなものが挙げられます。
- 車両本体の購入費用(耐用年数で割った「減価償却費」として認識)
- 高速代、パーキング費用
- 駐車場代
- ガソリン代、洗車代
- 車両保険料
- 自動車税
- 修理費用、タイヤ交換費用、車検費用
- 高速代、パーキング費用
これらの費用のうち、通勤や往診等事業用に使った高速料金やパーキング費用などは全額必要経費として計上できますが、それ以外の支出については業務での運行記録に基づく走行距離や使用日数等を使って事業使用割合を算定し、支出した総額を按分することで必要経費となる額を特定することができます。
② 家賃、使用料
クリニック事業の運営にあたり、経営者はサラリーマン時代と違って完全にオフの時間を作ることは難しく、プライベートな時間や空間を事業のために使わなくてはならない局面も少なくないようです。
そのような状況下で自宅の一部を倉庫や執務スペースとして専ら利用している場合、その使用に纏わる支出を業務上の必要経費として計上することが可能です。
・家賃
自宅の家賃や管理費・火災保険料等は、支出額を「全体の床面積のうちの事業専用使用部分の床面積の割合」で按分し必要経費とします。基本はあくまでも自宅であることから共用スペースについてはプライベートと考えるべきですが、部屋単位で事業使用部分を区分できる場合にはその面積を基に割合を算定します。
また持ち家の場合でも同様の計算に基づいて建物の減価償却費、固定資産税、住宅ローンの金利などを按分し必要経費とすることができます。
一方、事業使用スペースのためにかけたリフォーム費用やデスク等の購入費などはそのまま必要経費となります。
・通信費等
インターネットの利用料や携帯電話料金は、およその使用時間を目安に事業使用割合を決定して支出額を按分します。この割合は、実務的にはある程度の客観性をもって納得を得られる根拠があればよく、日常的な使用割合、通話割合などを基に決めて運用して頂きます。
ただしプライベート割合が入り込む余地のない項目を除き、いかに業務割合が高い場合でも経費割合は100%にはならないとご認識下さい。
必要経費にならないもの
逆に、個人クリニックを運営する上で必要と思われる支出であっても、税務上は必要経費にならないものがあります。
①院長個人の生命保険料
サラリーマンと同様、確定申告で「生命保険料控除」として一部のみ控除となるだけです。
②院長自身の健康診断や人間ドックの費用
健康管理が必要なのは経営者だけでなく、生活者の日常経費と考えられるためです。
③院長のみが利用するスポーツクラブの会費
上記同様、生活者としての一般支出と考えられるためです。ただし、職員全員を対象とした法人会員等の場合の会費は福利厚生費として必要経費となります。
④生計を一にする家族や親族への支払い
事業主と生計を同じくする家族や親族に対する給料や報酬、家賃の支払いは、特段のケースを除いて必要経費とはなりません。
例えばご夫婦ともドクターでご主人が開業、奥様は勤務医を続けながら週に1~2日パート勤務でご主人のクリニックで診療する、というのはありがちな形ですが、その場合奥様に支払うパート勤務分の給与は必要経費とはなりません。意外に思われるかもしれませんが、この点は所得税の独特なルールであり注意が必要です。
以上、クリニック運営の節税の基礎・第一回目は経費の考え方、使い方をご紹介しました。「必要経費」をうまく使って正しく節税を進め、クリニック運営を効率的に進めていって頂きたいと思います。
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